彼方より

日記や書評など駄文を綴ります、悪しからず。夢野久作と杉山三代研究会の末席を汚す者。https://twitter.com/pallentium

皮膚と骨

 肘が気持ち悪い。見た目も気持ち悪いし、触っても、勿論気持ち悪い。ただ、腕を伸ばしているとき、腕の関節をまっすぐに伸ばしているときにはその気持ちは薄れる。

 曲げた肘。まことにそれは弓だ。限界まで引き絞られた弓なのだ。肘を少し曲げる。途端に、待ちかねたように肘の骨は、私の肘の、ぶよぶよとした柔らかい肉をかき分けて、その皺を限界まで引き絞る。一番尖った場所に触れる。こう思う。

 人間は所詮肉袋に過ぎない。人間は巧みに、さも自らが高等な生物であろうと、ほかの動物とは一線を画しているかのように、その柔らかな皮膚を用いて擬態している。その実態はびよびよと人体四方に駆け巡る醜い血管と臓物ばかりなのだ。

 探偵小説の世界ではよく怪盗などと称される人物が、他の人間の顔を模したある種の肉感を伴う仮面を被りその人物に擬態するが、それは謂わば二重の擬態なのだ。皮の上に、もう一枚皮を被る諧謔と滑稽。登場人物は見事に騙され、怪盗はしたり顔でその場の窮地を潜り抜けたような態度を見せるが、否、初めから、全員騙されているのだ。

 張り詰めている、肘の皮。いま、肘を曲げて、その屈折点を触っていただきたい。人間がただ皮により擬態している肉袋であることが容易に知れるだろう。その骨の硬さと、鋭さ。いっそ突き破ることを願う。切に。その皮膚を。